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第16章の12

彼らが角を曲がってエレベーターの前に着いてしまうと、麻也は鈴木を制止して足を止め、 こっそりと立ち聞きせずにはいられなかった。 「で、藤田冬弥クンともその部屋で…」 「ほんとかよ~…でも、男でもクラっとしちゃうからな…でも、今に表沙汰に…」 「それがならないんですよ。坂口社長がまだバックについててもみ消してるらしいです。」 …麻也は真っ青になった。 (それじゃあウチの高橋社長はやっぱりアイツとつながりがあるってこと…? ) 「ええっ? 坂口社長、男の子もOKなの? 」 「っていうか、麻也さんだけにお熱だったみたいで。そのために妻子を捨てたって…」 「まさかそんな…じゃあなぜ今はグループ外の事務所に預けてるんだよ?  女の子つけていいのかよ。」 「一回坂口社長が干したのに、坂口さんに相手にされてなかった高橋社長たちが、 バンドごと気に入って育てたそうですよ。そしたら大きくなっちゃって… あと、女には坂口社長、目をつぶってるそうです。お水のコとか、女優の卵とかも。」 「へえ、モテるんだなあ…それにしても、干したの後悔してるだろうねえ…」 「でしょうねえ…でも、来年あたり、東京ドームに行ったら呼び戻すんじゃないですかねえ…」 「ドームか…行けそうだよな…オーラが半端なかったもんな… でも、そこまでいくと、愛人、じゃなくてパートナー、だな。」 「海外の大物みたいでカッコいいかも…」 …ひとりきりの時だったら、どうしていただろう… 自分の異変はあまりにひどいものだったのだろう。鈴木が、しらじらしい大声で、 「あ、荷物持ちますよ…みんな待ってるから急ぎましょう。」 と、麻也のバッグを持ち、今来たように、角を曲がった。

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