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第16章の38←諒の苦悩に傷つく麻也王子
…それを聞いても、諒の一度まとってしまったかたくなさというか、
麻也も寄せ付けないような雰囲気はほどけない。
「…そうですか。ではそれでお願いします。」
下を向いて諒が言うと、今度は社長の方があわててしまい、
「諒、本当にすまなかった。でも、お前も麻也も身持ちは堅いけど、
外から見れば本当にモテ男だから、またそうじゃなきゃいけないし、
そのイメージを手伝う俺たちの試行錯誤も理解してほしい。
お前たちほどの王子様は俺も須藤くんも初めてなんだよ…」
しかし、諒はうんざりだというように、皮肉たっぷりにこう言い出した。
「…奥さんの方じゃなくて、ダンナさんの方にしとけば良かったですね。
オトコがらみならどんなひどいウワサでもこうして尋問されませんしね!
人工授精も持ちかけられないし! 」
そう叫ぶと、あろうことか諒は席を蹴って、社長室を飛び出していった。
「諒さん! 」
とっさに止めようとした須藤も振り切って行った。須藤が後を追っていくが、
麻也は指一本動かすことさえできなかった。
(…諒…それって…)
人工授精って…おい…麻也…
会議室に入っていきましたよ、諒さんは…
打ち合わせか…ビデオの監督さんもいるんだろう…?
社長と須藤の手前、どうにか動かなくてはいけないのはわかっているのだが、
何から、どうしていいのかわからない…
諒に<負けたくないから>ビデオの打ち合わせには合流したい。
でも、でも、自分の秘密に触れているらしい諒は、自分のことをどう思っているのか…
(いったいどうしたら…)
取りあえず、二人には打ち合わせに出ると言って、麻也は社長室を出た。
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