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第16章48(←冷戦が終わらない諒と麻也王子)

「あのままじゃ小野ちゃんのウチにでも転がり込みそうだなあ…」 直人が冗談めかして言うと、真樹は、 「いやあ、それは彼女と住んでるから無理だろー…」 と言う。 何でも小野は将来、彼女と沖縄でペンション経営をするのが夢で、 秘密厳守とハードスケジュールのために高く設定されたバイト代が魅力で、 ここに来たのだという。 「三浦ちゃんはまだ未定で、自分探しの旅の費用を稼ぎに来たんだって。」 「にーちゃんは情報早いなあ。俺はてっきり、芸能界入りを狙って来たのかと思った。 トレンディドラマの俳優とか、もしかするとポップス系のシンガーとか。 それで…」 直人が濁した言葉が麻也にはわかった。 諒も同じようにカン違いしていて、 弟子に取るのでもあるまいし、 ステージに全力を傾ける自分の、 内に秘めたものがのぞかれそうで嫌だったのかもしれない...  …作業が終わって解散となると、今夜も諒が見当たらない。 「三浦くん、諒さんは?」 「あ、すみません...いつの間にか…」 「そんなことじゃあ困るんですよ!」 いつにない須藤の怒声に、近くにいた麻也たちメンバーまで縮みあがった。 そこに須藤と鈴木の重いカバンを持って追いついてきた小野が、 「すみません、諒さんはそっと帰っていかれました。 急いでるみたいでした。」 すると須藤の怒りは今度は諒に向かい、 「諒さんもなんなんだか…麻也さん! 」 伝言か? と麻也が身構えると、ありがたいことに真樹が、 「冷戦中でーす! しゃべれませ~ん! 」 「あーまったくもう! 明日のスケジュール変更も聞かないで…」  疲れでピリピリし始めたマネージャー陣に帰ると声をかけると、 真樹と直人は三浦と小野に声をかけていた。 「慣れなくて大変だと思うけど、明日もよろしくね。すげー助かってる。」 「元気もらってるわ。あと、諒はいつもはあんなじゃないから。 あったかいヤツだから安心して。」 麻也も何か声をかけたかったが、疲れて何も思いつかなかったので、 いつも他のスタッフにするように、 できるだけ優しく微笑みかけてその場を去った…

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