888 / 1053

第16章の54←諒は結婚の頃みたい…と苦しむ麻也

 この日は、もうこれ以上時間が取れないという状態だったので、 メンバーはほぼ最後の力を振り絞って、 ビデオのカメラに向かった。  麻也もギターさえ持ってしまえばどうにか動けたし、 音を出すわけではないのでどうにかいけた。 いつもほめられる、華麗なのに雄々しいといわれる動きは、 ライブとは違うので抑え目にしたということで...  撮影が完了したのは深夜もいいところで、 それからタ食として豪華な弁当が出されたが... みんなは、とにかく栄養補給のために食べなければ、と 無理にでも箸を進めていたが、 麻也は一度は取り上げた箸をすぐに置いてしまった。 お茶のペットボトルを配っていた小野も驚いて、 「...麻也さん...?」 「ああ...気にしないで..」 と、麻也がどうにか笑みを作ると真樹が、 「兄貴、口開けて。順番で食わせてあげるから。」 もう誰も諒を頼ろうともしないのも、麻也には寂しかったが... 「いいよ。持って帰って家で食べる。」 「そう言って、兄貴は食わねえじゃんかよ。」 と真樹が怒るのを見かねた直人が、 「兄上、せめて酒のつまみにしたら?」 と言い、麻也も、じゃあそうしようかな、と答えた。 撮影で麻也の分も動いていた真樹は相当疲れているらしく、 珍しいことにそれ以上何も言わなかった。 諒はその話題には少しも入ってこようとはしなかった。  思えば諒が、この忙しい中で談笑している相手は須藤と小野くらいで、 あとは監督と監督のところの撮影スタッフ…  麻也は、あの、諒の結婚話が持ち上がった頃を思い出して、 もう誰にも何も言えなくなっていた。  そしてその日の夜も、諒は、戻ってこなかった…

ともだちにシェアしよう!