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第16章の55←医者の世話になりたくなった麻也王子
諒は帰ってこないけれど…
でも、自分に何も言わず、目さえ合わせようとしないのは、
諒にも後ろめたいこと、とか、悩みのようなものがあるということなのだろう。
(リズム隊が<見つめ合うシーンを作れ>って言ったのに、
今回だってテレビでも流れるからダメ、って強硬だったしなあ…)
あの様子なら、まだ諒は自分に未練を持ってくれているのではないだろうか・・・
…ワインの空き壜を眺めながら、麻也はそんな風に思いを巡らせていた。
(何にしても、せっかくバンドもここまできたんだ。
色恋沙汰で自滅なんてことは避けたい...)
…と、そこまで考えて、久しぶりに笑ってしまう。
男同士で、それもメンバー同士のスキャンダルで崩壊したバンドなんて聞いたことがない...
(まあその一番目にならないように気をつけないと...って...)
諒だってバンドがなくなるのを許せるわけがない。
そのあたりはお互い落ち着いてビジネスライクにいくと思うが、
諒に新しい相手ができたら、自分はどうすればいいかわからない...
諒のいない寂しさを倍増させるので使っていなかった寝室だが、
とにかく寝つくために気分を変えてみようと、麻也はダブルベッドに入った...
…が、やっぱり寝つけない...
(眠れないのは構わないけど、仕事時間だるいのは勘弁してくれよ…)
どうがんばっても体がアタマの言うことをきかないので、先が思いやられる。
今回はさらにツアーの会場の規模も大きくなるので、
完売できなければプロモーションのテレビ出演も増えるかもしれないし…
とにかく万全の状態でツアーの最終日まで駆け抜けなくてはいけないのに…
(また医者に頼らなきゃだめなのかな…)
須藤にすら不眠は知られたくないが、慣れた病院の方が安心だし、
特に顔を知られた麻也のような立場だと、
事務所に内緒でかかった医者が悪人だったりしたら、
バンドにまで迷惑がかかる恐れがある。
(…外国みたいにドラッグ漬けなんかにされても困るし…)
…にしても、眠れない。
そして、もういくらなんでもこれ以上アルコールを飲むと仕事にさしさわるので、
飲めない。目ばかり冴える…外も明るくなってきた…
・・・それでも、なぜかリビングのソファの上で、チャイムの音で飛び起きた…?
・・・と、起きたからには、わずかの間でも寝ていたのだろう。
パジャマのままだったので少し慌てたが、やってきたのは須藤と鈴木だった。
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