891 / 1053

第16章の57(←過去を乗り越えられず、苦しむ麻也)

次の須藤の言葉は意外なものだった。 「…事務所サイドとして困る、という前に、麻也さんそれでいいんですか?  もしかして諒さんが社長室飛び出して以来ですか? 」 須藤と鈴木の心配そうな表情に、麻也は正直に答えたくなった。 「うん…何だか、世間話すらできなくて。あそこまであっちが拒絶ムードだと…」 と、言いながら、先輩バンドの曲の、二人が好きだった歌詞、 <どうにもならないことは、どうなってもいいこと>という、 言葉が思い出されてきていた… (こんな状態で判断力が鈍っていたとはいっても、 真樹や直人が手を差し伸べてくれたのに、もっと乗っかればよかった…) 「麻也さん、体調が悪いから判断力が 鈍ってるんじゃないですか?  スケジュールは動かせないので、せめて病院に行って、点滴とか薬とか試して…」 いつもの老獪さを忘れたように力説する須藤の姿に、 みんな疲れている、と改めて気づかされながら麻也は、 (結局は…俺にあんないまわしい過去があるからいつだって…) またそんなことを考え始め… 「じゃあ、どうすれば、麻也さん、病院に行ってくれますか?  諒さんと一席設けますか? 」 今の麻也にはそれはつらい。仕方なく麻也は答えた。 「わかりました。病院に行きます。点滴とか、薬で少しでも良くなったら、 それから諒のことは考えます。」

ともだちにシェアしよう!