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第16章の57(←過去を乗り越えられず、苦しむ麻也)
次の須藤の言葉は意外なものだった。
「…事務所サイドとして困る、という前に、麻也さんそれでいいんですか?
もしかして諒さんが社長室飛び出して以来ですか? 」
須藤と鈴木の心配そうな表情に、麻也は正直に答えたくなった。
「うん…何だか、世間話すらできなくて。あそこまであっちが拒絶ムードだと…」
と、言いながら、先輩バンドの曲の、二人が好きだった歌詞、
<どうにもならないことは、どうなってもいいこと>という、
言葉が思い出されてきていた…
(こんな状態で判断力が鈍っていたとはいっても、
真樹や直人が手を差し伸べてくれたのに、もっと乗っかればよかった…)
「麻也さん、体調が悪いから判断力が 鈍ってるんじゃないですか?
スケジュールは動かせないので、せめて病院に行って、点滴とか薬とか試して…」
いつもの老獪さを忘れたように力説する須藤の姿に、
みんな疲れている、と改めて気づかされながら麻也は、
(結局は…俺にあんないまわしい過去があるからいつだって…)
またそんなことを考え始め…
「じゃあ、どうすれば、麻也さん、病院に行ってくれますか?
諒さんと一席設けますか? 」
今の麻也にはそれはつらい。仕方なく麻也は答えた。
「わかりました。病院に行きます。点滴とか、薬で少しでも良くなったら、
それから諒のことは考えます。」
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