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第17章の7(←これって誘われてる?仕事の合間の諒)
「今日はツアーパンフか何かの撮影ですか? 」
気を遣って諒の方から口火を切った。
すると彼女は照れくさそうに、
「いいえ、ファッション雑誌なんです。
プロモーションの一環なんですけど。
私のこだわりのファッションを披露…とか…困っちゃいます…」
「あ、僕もです。音楽雑誌とかと違ってアウェイですよねえ…
でも、今日はカメラマンさんといい出会いでした。」
しかし、奈生子は心ここにあらずという表情になり…
ちょっと待ってください、と言うと、
パーテーションの向こうに姿を消し、
諒の分のお茶を持ってきてくれた。
「えー、すみません…」
諒が恐縮してコップを受け取ると、奈生子は微笑みながら、
「ダージリン。コップはこうでも、今日のはなかなか美味しいんですよ。」
そう言われて一口飲むと、確かにいい香りだったが…
「この雑誌の現場はスイーツも美味しいんです。
何か持ってきましょうか? 」
さすがに諒自身が姿を見せるわけにはいかないので言ってくれるのだろうが、
相手は先輩なのでそんなに頼むわけには…と思っていると、
春色のワンピースの彼女は壁に紙を押し付けて、
ペンで何か書き始めてている。
自分もよくやるが、同じように多忙な彼女が、
忘れないように何か歌詞のネタでもメモし始めたのかと思った諒は、
見ているのも悪いなと彼女から目をそらすと、
「…あの…これ…」
と、思いつめた声で、小さく折りたたんだ紙を渡された。
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