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第17章の54(←諒のバンドは止まらない)
さらに調子に乗った社長は、
「直人にはもう1つあるぞ。西園寺勝輝さんのミュージックビデオ出演! 」
こっちの方がびっくりだった。
80年代日本のバンドブームを牽引した伝説のバンド<モラル>の天才ボーカリスト。
<モラル>はよく諒たちもコピーしたバンド<デカダンス>のさらに先輩バンドで、パンクやグラムがルーツのバンドだ。
西園寺はバンドの解散後もソロ活動で売れ続けているが、
その大御所のビデオの冒頭から出てくる若いドラマーを演じるというのだ。
「若いロッカーについての歌詞だからって言うのもあるし、
直人のたたずまいが西園寺さんの気に入ったってのもあるみたいだぞ。」
「じゃあ俳優ってこと? 」
真樹のその言葉を聞いて、諒がふと思ったのは、<音はどうするの?>だった。
直人は大きすぎる話にただぼうぜんとしている
もういつもの彼らしい落ち着きを失っている。
しかし、社長は、
「…音の方はもちろん、いつも組んでるベテランのドラマーさんだから、
演技だけでいいそうだ…若手の中では直人の音は気に入ってるそうだけどね。
なあ、直人、受けるよな? 」
「で、できますかね…」
と言いつつも、直人は一呼吸置くと、
「オーディションは受けます。でもそれで落ちたら申し訳ありません。」
「いや、オーディションっていうより、西園寺さんと実際に話してみて決まるみたいだよ。」
ますますもってメンバーには緊張が走る。
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