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第2章の9
「お兄ちゃん、芸能界になんか行かないで。ああいうところは男の子でもパトロンみたいのがついてヘンなことさせられるっていうじゃないの。」
「アイドルとかと違って、ロック界はそんなことないよ。」
「じゃあひとつだけ約束して。大学はやめないって。お母さん、学費出しておくから。音楽がダメになったらいつでも大学に戻って。」
そう言って、また涙ぐみ始めた母には、さすがに嫌だとは言えなくなった。
「わかった。そうするね。」
とだけ言い置くと、麻也はバッグとギターケースだけを持って家を出た。
ビジュアル系、という言葉が現れる直前だったが、時代はまだバンドブームの余韻を引きずっており、
さまざまな系統のバンドが乱立していた。
そんな中で、麻也の美少年4人組バンドは「セクシャル」と命名され、「デカダンス」を過激にしたバンドのように作り上げられ始めた。
キャッチコピーは、「男たちにも宣戦布告」というもので、メンバーは素ではみんな女の子が好きな普通の男の子なのに、
「男もOKな両刀使い」という過激なキャラ設定にされ、デビュー曲も、それを感じさせるような歌詞に、やや歌謡ロックのようなメロディーラインだった。
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