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第2章の30
「…クルマはポルシェにしようか…? ギターの方もなるべくはやく手配するよ…」
…背中から抱きしめられ…ささやかれた…
「…本当に、いとおしいんだ…悪いようにはしない。大切にする。ソロプロジェクトもがんばろうな…」
「…」
…全部否定してやりたいのに、苦しくて悲しくて、いや、よくわからないマイナスの感情に覆われてしまって、言葉が、出ない。
それでもどうにか耳へのキスを拒絶すると、驚いたらしく社長の腕の力が弱まったので、
それをふりほどき、まだかろうじて浴衣を羽織っていたMA-YAはよろよろと立ち上がった。
そして、テーブルの上にあった部屋のカードキーを取り上げると、振り返りもせず、ふらふらとドアへと向かった。
「本当に、悪いようにはしないから…」
社長の声が追いかけてきた…
自分の部屋に戻ると、MA-YAは床の上に座り込んでしまった…
(…女じゃないんだから…)
…その…決定的な…被害じゃない…
そう思おうとしてもだめだった。
別に将来の真面目な恋愛や結婚なんかのビジョンがあったわけではない。
でも、でも…
自分の、油断も、後悔してもしきれなかった。
それにしたって…
(…いずれ本気で誰かを好きになってしまったら…)
…相手が男でなければいいのか…
…いや、そういう問題じゃない…
…俺は穢されたんだ…
…まともに人と恋愛なんてできないんだ…
…これからは誰かのおもちゃにしかなれないんだ…
…認められないけど…認めたくないけど…
…もう俺、どうなってもいいんだ…
…ファンの前に立たなきゃいけない人間なのに、こんな、穢れて…
そう思ったとたん、涙があふれて止まらなくなった。号泣になった。
いつまでもそれは止まらなかった…
次の日はマネ―ジャーに付き添われ、MA-YAだけ別のワゴン車に乗せられて、東京に帰ってきた。
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