60 / 1053

第2章の42

 次の日、麻也たちは寮を出る準備が整った。  ピンポンが鳴ったので、ドアを開けると、久しぶりに見る、いっそうたくましくなった真樹だった。  麻也が恭一に真樹を紹介して、律儀な二人が挨拶を済ませると、真樹はひょいと部屋の中をのぞいた。 「ふうん、こういうところに住んでたんだ…あれ、兄貴、あの高そうなギターは? 」 ギターケースの横に置かれたそれはあのストラトキャスターだった。 前日、マネージャーからの伝言で、社長が必ず持って行けと言っていたという。 社長からのはなむけだったらしい。 が、麻也はそれには目もくれずに言った。 「社長からの借り物。ここに置いとけば回収してもらえるんだ。」 「へえ、そうなの。」  ギターケースなどを持ち出して外に出ると、ドアに鍵をかけ、そのカギをドア脇のポストに落とした。  真樹の車はなかなかのワゴン車だったが、安月給だった二人の荷物はあまりに少なかったので、真樹は驚いていた。  車の中では、助手席の麻也が、 「恭一は偉いんだよ。もう次の仕事決めてきたんだ。」 「へえ、恭一さん、何のお仕事ですか? 」 「ミュージシャンは卒業して、ベースの、リペアの仕事。俺は楽器そのものが好きなんだってわかったから…」 「そうですか。俺、学生ですけど、ベース弾いてるんですよ。出世したら恭一さんにベースみてもらおうかなあ。」 「じゃあ俺も腕磨いとくよ。」

ともだちにシェアしよう!