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第18章の14(←キスシーンを仕上げる麻也王子)

 この練習を自宅でやることを、諒はいつしか嫌うようになっていた。 話を振るのもダメなぐらいで(ツアーの先のホテルの部屋は別として)、 あとは、ツアーの途中で帰京した際に、リビングに鏡を持ち込んで遅くまで、 それまでの公演地でやっていないバリエーション2人で考えることもあるが… とはいっても、もちろんライブでそのままできるわけではなく、 公演先によっての客席の反応の違いやその場の空気や何かによって、 アドリブがほとんどになる。 また、その日の衣装や動きによっては、汗の量もかなりなもので、 ヒカリモノの衣装が多い二人の<愛のふれあい>には、 小さなスリップ事故も多くなる。 これがビデオに残ってしまうと結構恥ずかしい。 ファンの記憶に残るのはいい…のか? とはいえ、最初に諒が提唱した通り、この練習が、 アスリートの基礎練習のように、ここ一番で効果を発揮する。 そして、ライブ全体のイメージトレーニングにも役立っている…  …それぞれ本番同様マイクとギターを持ったまま動くが、 ライブ本番と違って、笑顔はほとんどない。 メモに残すことがあったら、各自で書き残す。 後からまたアイデアを交換することも多い… 二人の真剣な姿に、いつしか冷たい視線も温かいものに変化していた…  しかし、そこで諒の付き人兼 SPの小野が、 「すみません、諒さん、もう次の移動の時間なんですが…」 「はーい、今出ます…」 珍しく素直に諒は答え、 麻也には名残惜しそうにキスをすると、子供の様な笑顔でハグしてきた。 でもその表情はスタッフを意識していたように見え、 麻也は何となく距離を感じかえって寂しくなった。

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