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第3章の3

 そして麻也は、チケットをしげしげと見た。 懐かしい気持ちがよみがえってきた。 (…俺にもこんな時があったっけ…) そして、 (そういやサポートの話はどうなったのかな…) そんなことまで考えてしまっていた。さらには、ライブハウスに行く前なのに、 (俺、やっぱりギターを弾いていたいんだ…) とまで思うようになっていた。 とはいうものの、それをストレートに真樹には言えない。 元プロの意地があるからだ。  でも、密かにわくわくしながら、麻也はライブの日を待った。  ライブハウスは都内にあった。  残念ながら、恭一は仕事で来られないという。  麻也はお気に入りの黒のスーツで、一人で電車で出かけた。  女性たちのチラ見、二度見には慣れっこだ。中には男性もいたけれど…  降りた駅からしばらく歩いたところに、お目当ての、 そして自分もライブをやったこともあるライブハウスがある。  が、その入り口で、並んでいる客をかき分け、地下のライブハウスへと降りていく人物を見てしまった。  前の事務所のスカウト。  間違いなかった。  麻也は愕然とした。  前の社長と麻也との醜関係を声高に言いふらしていた人物の一人だった。 (何でここに…真樹が言ってた「すごいバンド」目当て…? )  顔など合わせたくない。  でも、どうしよう…  

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