66 / 1053
第3章の5
ライブハウスに入ると、
女二人は、麻也といられることですっかり舞い上がってしまっていて、
後ろの方で見ようという麻也に反対はしなかった。
他にも、男女問わず、MA-YAに気づいて話しかけてくる客は何人ももいた。
「弟のバンドが出るから…」
「すごい~。弟さんって似てるんですか? 」
「ううん。まったく似てないよ。」
「何番目のバンド? 」
「三番目。『ディスティニー』っていうバンド。」
麻也は何だかドキドキしてしまって、他のバンドなど見ているどころではなかった。
ようやく「ディスティニー」が出てくると、それまでとはまったく違う大歓声があがり、麻也は嬉しくなった。
「弟さん、どの人? 」
「左。ベーシスト。」
あっという間に演奏が始まった。その重厚なサウンドに、麻也は少し驚いた。
そして、ボーカル…
麻也はかなりびっくりした。
アマチュアとは思えない、身長とプロポーションに恵まれた、
日本人離れした顔立ちの金髪の美形。
そのくせハングリーさをたたえた目力がすごい。
カッコいいミュージシャンなんか見慣れたはずの麻也にも新鮮なルックスだった。
そしてとにかく、麻也が嬉しくなるくらい声量がある。
声は聴く人によって好みが分かれるかもしれないが、個性的な落ち着いた声で、説得力や表現力もある。
音楽性は…ジャンル分け不能という感じ。激しい曲もあれば、スローな曲もある。
「デカダンス」やその先輩バンドの「ドリアン・グレイ」みたいなゴシック・ロックやグラムロック、グランジ、パンクなんかの色んなものに影響を受けているようだが、
根底にあるのは、「退廃」とか「背徳」であるようだった。
(この子、デビッド・ボウイやデビッド・シルビアンとか好きなんだろうなあ…)
パントマイムもできるのか、長い手足での優美な動きは、
男の麻也もちょっとうっとりさせられる。
それを支えているリズム隊も華があって、これまで出てきたバンドよりははるかに格上と言った感じでインパクトがあった。
が、やっぱりギターが…せっかくオリジナリティもあるバンドなのに、他の三人に比べて下手な感じで、ギターソロになると特にマズい。
麻也はイライラした。
そしてそれはそのボーカリストも同じだったらしく、5曲が終わって、
「どうもありがとう、ディスティニーでしたっ!」
と叫んだのには笑顔はなかった。
客席も何となく騒然とした空気の中、リョウと呼ばれていたそのボーカルはメンバーの中で最後にステージを降りていった。
ともだちにシェアしよう!