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第3章の9

 スタジオでは、メインで使っているレスポール型のギターを借りて、麻也は弾いた。  久しぶりにストラップを掛け、ギターを持って、大きな音が出せることはやっぱり大きな喜びだと麻也は思った。  4人が好きな「デカダンス」の1曲で合わせたのだが、もちろん実力の差は歴然だった。  でも、のびしろのあるバンドだと麻也は思ったし、オリジナル曲の個性は麻也にとっても魅力的だった。  そして、麻也が傷つき、疲れ果てたおおもとの原因と思われる、ボーカルの声量… それがこのバンドには豊かにあったのが麻也には嬉しかった。  それがまだ原石としても、ボーカルスタイルにも個性があったし。  そして、メンバーのルックスも、諒だけでなく、リズム隊もなかなかよかったし。  取りあえずこのバンドと行動を共にしてみるのも悪くはないかもしれない…    明かな負けにどうしよう、とがっかりした表情の真樹に、麻也は優しく声をかけた。 「サポートからじゃなきゃダメなの? 」 「えっ、何それ? 」 みんな色めき立つ。 「だからあ、特別に、いきなり正式採用とかってないの? 」 「えーっ、いいんですかあ? 」 大声を出したのは諒だった。 「兄貴、ほんとか? 」 「うん。」 「お兄さん、俺たちで大丈夫ですか? 」 「うん。のびしろがあるから。でも俺も手を抜かないけど。」 すると諒が口走る。 「俺たち必ずてっぺんまで行きますから。」 「プロになります。」 と、口走った直人が、次の瞬間、あっ、という表情になったのはどうしてだったのか。 真樹は困ったように、 「兄貴が苦労したのはわかってるんだけど、俺も一度はメジャーに行ってみたいんだよね…」

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