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第3章の12

 真樹と麻也が同じ列に座り、直人と諒が向かい側に座って、今日の反省と今後の課題を語り始めたのだが… 麻也は向かいの諒がなぜか気になって仕方がない。 (すっぴんでも本当に綺麗なコだな…カリスマ性もかなりあるかもしれない… 真樹もよくこんないいヤツ見つけてきたな…) そんなことを考え終えても、麻也の目はちらちらと諒を見てしまう。 怒られるかな、と思いきや、諒も遠慮がちにこっちをちらちらと見ている気がする。 (人間観察を常にしているコなのかも…ありえるよね…) 「ちょっとぉ、聞いてる?! 」 真樹の声で2人の均衡は壊された。 「ごめんごめん。それより、今日のすごいバンドってどれだったの? 」 「ったーく、今その話? 今日のすごいバンドってのは俺たちだよ、俺たち! 」 天然入ってるから…と言われる前に、麻也は続けた。 「いや、前に俺がいた事務所のスカウトが来てたみたいだからさ。」 するとみんなは驚いた顔をしたが、真樹はすぐに我に返り、 「いや、楽屋にはそういう人はこなかったな。店長と話すくらいだったんじゃない? 」 すると麻也はもといた事務所の名をあげ、 「そこから話が来ても受けちゃだめだよ。」 理由は… 「うーん、アーティストに優しくない。センスもない。だから使い捨て。」 なるほどねえ、といった空気の中に、メジャーに近づいたなあという3人の思いを感じて、麻也は複雑な気持ちになる。 気がつけば、目の前の諒は、ストローを口にくわえたまま、大きな目をらんらんと輝かせている。

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