77 / 1053
第4章の2
打ち上げは、麻也の歓迎会も兼ねて、それでも安さがウリの地元の居酒屋だった。
「俺、飲めないからなあ…」
運転担当の真樹が言うと、直人が、
「じゃあ、いつもみたいに酒はやめよう。」
「わりぃ。でも兄貴は飲んでいいよ。」
「いや、俺もいいよ。メンバー扱いしてよ。」
麻也のおどけた言葉にみんな笑った。
今日初めての諒の心からの笑顔が、麻也にはなぜかとても嬉しく思えた。
そう。諒は楽屋入りの時から、ものすごく表情が硬かったのだ。
かなりの緊張のよう…力も入り過ぎていたのだろう。
さらに、このライブ前に、ボイストレーニングも受け始めたと真樹から聞いていた。
しかしそれが、ステージ本番になると、水を得た魚のように、カリスマ性のあるボーカリストに戻っていた。
ギターが安定しているせいか、直人も真樹も満面の笑みを浮かべていることがあったが、
位置のせいもあってか、諒のそれは見ることはできなかったのだ。
それが…
諒の表情がやわらいだのを見て、麻也は切り出した。
「今日やってみてどうだったんだろう…」
ともだちにシェアしよう!