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第4章の2

 打ち上げは、麻也の歓迎会も兼ねて、それでも安さがウリの地元の居酒屋だった。 「俺、飲めないからなあ…」 運転担当の真樹が言うと、直人が、 「じゃあ、いつもみたいに酒はやめよう。」 「わりぃ。でも兄貴は飲んでいいよ。」 「いや、俺もいいよ。メンバー扱いしてよ。」 麻也のおどけた言葉にみんな笑った。 今日初めての諒の心からの笑顔が、麻也にはなぜかとても嬉しく思えた。  そう。諒は楽屋入りの時から、ものすごく表情が硬かったのだ。 かなりの緊張のよう…力も入り過ぎていたのだろう。 さらに、このライブ前に、ボイストレーニングも受け始めたと真樹から聞いていた。  しかしそれが、ステージ本番になると、水を得た魚のように、カリスマ性のあるボーカリストに戻っていた。  ギターが安定しているせいか、直人も真樹も満面の笑みを浮かべていることがあったが、 位置のせいもあってか、諒のそれは見ることはできなかったのだ。  それが…  諒の表情がやわらいだのを見て、麻也は切り出した。 「今日やってみてどうだったんだろう…」

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