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第4章の11
…次のライブは、荒れた。
といっても、それは客席のことで、バンドの音自体はまとまってきていた。
対バンがやや過激なビジュアル系のうえ、急成長してきたディスグラにやっかみを感じたそのファンもいたらしい。
諒のMCの時まで「セクシュアル!」とか、「MA-YAちゃん、都落ち!」などと野次が飛んだ。
諒と麻也が一本のマイクで歌うと、「気持ち悪ーい!」と罵声が飛んできた。
すると、曲の切れ間に、ますます挑発するように、諒は麻也のところまで来て、
笑顔でハグしてきた。
気づけば麻也も驚きを隠し、笑顔でハグし返していた。
ディスグラのファンからは歓声があがり、それ以外の観客からも好意的な笑いが聞こえてきて、少し空気がなごんだ。
店を出ると、出待ちの女の子同士が15対10くらいでにらみあっていた。
その中から麻也はいくつもプレゼントや手紙をもらい、他のメンバーもそれぞれプレゼントをもらっていた。
「ありがとう。帰り気をつけてね。」
と、握手もして、四人がその場を離れようとした時、
こっちをにらんでいた出待ちから罵声が飛んだ。
「ホモのMA-YA! 」
「社長のお手付きのクセに! 」
「二度とメジャーになんか来んな! 」
麻也は目の前が真っ暗になった気がした。
(…いやだ…メンバーには知られたくない…)
が、他の三人も相手にはせず、駐車場に向かって歩いていく。
「あいつら頭腐ってるんじゃねーの。」
「バンドが気の毒だな、ああいう客いると。」
真樹と直人がそんなことを言っていると、珍しく諒の方から麻也に話しかけてきた。
「麻也さんごめん。俺がハグなんかするから…」
諒のカン違いに、麻也は感謝するばかりだった。
それでようやく平静を取り戻し、
「いや、あれでよかったんだよ。ウチのファンは喜んでたじゃん。今度からもやってよ。」
諒は笑顔でうなずいてくれた。
街頭に照らされたその笑顔はやけにまぶしく見えた…が…
(えっ、俺、諒ならハグも平気なの…? )
麻也は今さらながら驚いていた…
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