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第4章の26

 そして本番の日…  例の曲の間奏部分で、諒は麻也のところに近づいてきた。 が、まず、麻也の頭を抱き寄せる時に、「いいの? 」とためらうような表情を見せたので、 麻也はなぜかそれに反応してしまい、危うく演奏を間違えるところだった… そして、何事かささやくと角度を変えてキス…それは人前でははばかられるような深い長いキスだった… 麻也はびっくりしていたが、諒のリードに任せた… その間、無事に指が動いていたのは奇跡だったと麻也は思った。 客席の反応はわからなかった。 そして、麻也の中の動揺は続いた。 真樹がリハーサル通りにやってきて、背中を合わせて演奏を始めたので、 ようやく現実に戻れたほどだった。自分もハプニングには強いはずなのに…  アンコールがかかったので、急きょ作ったそれ用の曲で応えた。客の入りはこの前と同じくらいのようだった。 「さすがは諒。本番の魔術師だね。」 「兄貴、俺たちの言ったとおりだったろ? 女の子の悲鳴で盛り上がったじゃん。」  楽屋に戻っても、キスのことばかりが引っかかって、麻也は作り笑いを浮かべるのがやっとだった。 見れば、諒はほめ言葉をもらった後は、何事もなかったように帰り支度を始めている。 思えば、諒から「成功してよかったね」の一言もなかった。 …ってそれを寂しく思っている自分は何なのだろう…  まあ、あんなに長いキスなんて久しぶりだった。  あのことがあってから、人とそんな風になったことはないのだから…    嬉しいことに本田が顏を出してくれたが、感想は、 「キスの時間、長過ぎない? 」 というものだった。麻也はそれにも作り笑顔が精いっぱいだった。

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