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第4章の29

 それは、諒の、自分に対する態度が変わってきたこと…  窓もない練習スタジオで、何かの都合で二人きりになると、手を握ってこられる。  やんちゃな少年ぽいキャラを見せるようになった彼は、 そこでは殊勝な様子でデートに誘ってくるのが可愛い…のか? 「ねえ、麻也さん、今度二人で美術館に行かない? 俺の世界観をもっと知ってほしいからさ…」 彼の両刀主義に協力するため、と自分に言い聞かせて、 麻也は自分からは手はほどかないが、 「あの、公園の美術館でしょ? じゃあ、教養を深めるために、みんなで行こうよ。」 「だめ。俺はフロント同士の親睦を深めたいの。」 何となく、諒と過ごすのもいいかな、とか、彼に対して抱いている、 いい意味で何かもやもやしたものの正体が見えるかも、 とか、麻也の気持ちも動かないわけではない。 でも、その美術館はとても広い公園の中に建っているので、 そこの木陰なんかでまた「キスやハグの練習」などといって諒に接触されたら… と思うと怖い。 …いや、諒が怖いわけではなくて…自分の反応が…怖いのだ… 「ごめん遅くなって…」 「コーヒー買ってきたよ…」 真樹と直人が入ってきて、ようやく諒は手を離していつものキャラに戻る。

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