106 / 1053

第4章の30

 さらには、いつからか、ライブで諒はキスの前に、 どこかの角度で必ず「愛してるよ」と囁いてくるようになっていた。  初めは驚いてしまい、何も答えられないままキスを受けた。  二度目にようやく笑顔で「俺も」と答えられた。すると、首筋からの過激なキス… そういった行為とは無縁になってしまった麻也はどうしても少し反応してしまうので、 それをごまかすのに本当に苦労するのだ… (諒のヤツ、何考えてるんだ…) …と思っても、怒り切れない自分もいて…そんな自分も、麻也は持て余しているのだが…  打ち上げのまでの帰り道、リズム隊から少し離れたところで、麻也は言ってみた。 「諒、あそこで『愛してるよ』は言わなくていいんじゃない?  どうせマイクには乗せないんだし。」 すると諒は一瞬言葉に詰まり、いやあそこは雰囲気を出すために…などとぶつぶつ言う。 「…麻也さんだって、『俺も』っていうじゃん…」 「あれは…」 そこで麻也もどうしてか言葉に詰まった。二人で立ち往生になった。  ようやくそれに気づいた真樹が、 「ちょっと、そこで何やってんの。」 と、声をかけてきたので、ようやく二人は歩き出すことができたのだった。  ファミレスに入って、「打ち上げはアルコール抜き」のルールを破って、 諒は勝手に赤ワインを注文した。 「どしたの、諒? 」 「じゃあ、俺は白ワイン。」 「兄貴まで? 」 ワインを口にしながら諒は言った。 「飲まなきゃやってられねえんだよ。」

ともだちにシェアしよう!