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第4章の34
別にバンドのリーダーというわけではないが、バンド活動の先輩として、
実際に麻也は行動に移した。
練習の前に地元のファミレスに諒を呼び出したのである。
諒はびっくりして飛んできた。
「話って何ですか? 」
「諒の気持ちが訊きたかったんだ。」
えっ? と諒はとまどっている。
「バレてるよ。引き抜きのこと。」
諒は真っ青になり、
「心配かけたくなかったから…黙ってました…」
「でも、バンドに残ってくれて良かったよ。」
「違うんです。あっちがしつこくて…」
「言い訳しなくていいよ。ディスグラの方が魅力的だったってことでしょ。」
「信じてください。俺は自分が作ったバンドから離れる気なんて全くなかった。」
そして強い口調で、
「麻也さんと出会ってからは、絶対に麻也さんと一緒にやっていきたいって思ってるんです。
これからも、お願いします。」
そう言って頭を下げた。
それを見て麻也は、なぜかこんなことを言ってしまった。
「わかった。もうこの4人でメジャーまで行こう。石にかじりついても行くんだよ。」
「はい。」
と、答えた諒は、何となくもじもじしている。
「どしたの? 」
「い、いや、明るいところで、こうして麻也さんと2人だけ、ってのが新鮮で…」
そう言われると、麻也も何だか意識してしまう。
少年ぽくはにかんだ諒の様子は、ステージであんなに濃厚なキスを仕掛けてくる男とは思えなかった。
目の前の諒が美しすぎるせいか、麻也も頬が赤らむのを感じ、思わずうつむいた。
昼間の光に優しく輝く、諒の目の緑色が、麻也には強く印象に残った。
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