112 / 1053

第4章の36

 とはいうものの、今度のライブハウスをいっぱいにできた頃から、 スカウトマンの本田は姿を現さなくなっていた。 「CDの話はどうなったんだろう。」 しょげる3人を前に、麻也はこう言うのがやっとだった。 「社内で可能性を模索してくれているのかもよ。 まあ、ダメなら他の会社を自分たちで引っ張らなきゃ。」 そう言った矢先から、いくつかのインディーズレーベルから、CD化の話が舞い込んできた。  しかし麻也にも迷いはあった。全くのインディーズからでもCDを発表して知名度アップにつとめた方がいいのか、 それとも本田のところのように、メジャーの会社のインディーズ部門との出会いを待った方がいいのか…  さらには、今のライブハウスより広いところとなると「会館」と名がついたところになってしまい、 スタッフもいない自分たちでは運営ができない。  ならば、都内だけでなく、近場から名古屋くらいまでの「ツアー」をやった方がいいのか…バンドの悩みは尽きなかった。  救いだったのは、音楽雑誌に取り上げられるようになったことだった。  ほんの小さなスペースであることも多かったが、「セクシャル」時代に知り合ったライターだと、 写真も撮影してくれて、4分の1ページくらいで載せてくれたりした… 麻也の紹介にどうしても「元セクシャル」とついてしまうのには、何とも複雑な気持ちだったが。

ともだちにシェアしよう!