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第5章の<すり抜ける愛>の1

 その頃、バンドの状態は正直いってあまり良くなかった。  相変わらずの足踏み状態だったからだ。  そんなことでいらだっているのか、いつしか諒は首筋のキスマークもそのままに、リハーサルに通ってくるようになった。 直人の話によると、どうやら日替わりの女のところから通ってくるらしい。     ファンの手前、そのキスマークを見苦しく思った麻也は、注意しようとスタジオの廊下で諒に話しかけたが、 「何、麻也ちゃん妬いてるの? 」 と、鼻先であしらわれ、気がつけば唇を重ねられていた。 「何するんだよ! 」 なぜかドキドキしてしまった麻也は、そう言うのがやっとだった。 それにはかまわず諒はさっさとスタジオに戻っていく。 その背中に、 「メンタル弱すぎ! 」 と叫んではやったのだが。 しかし、そんな自分のドキドキ感を見透かされて、 諒にナメられたような気もして麻也は自分自身にもいら立つ。 (キスなんて、ライブの延長なのに…) しかし…目を背けたくなる自分の気持ちも…あるかも… (日替わりの女って…何…?) いや、自分はきっとそれがうらやましいのだ、と思うことにする。 自分だってその気になればそれくらい…あの…いまわしいことがなければ、 今だってできてただろう… そう、きっとそういう気持ちなのだ。 (そんな…諒の恋愛を憎んでるんじゃない…だって、そんなのおかしい…だろ? ) そう自分に言い聞かせる。

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