117 / 1053
第5章の4
マンションで、部屋に入ると、
「こんにちは。社長いる? 」
と、本田は親しげに社員に声をかける。社長室だと言われ、今度は隣の部屋に通される。
そこにいたのは何とも人のよさそうな40がらみの高橋社長だった。
「ディスグラのメンバーを連れてきましたよ。」
「ああ、どうも。しかし近くで見てもデカいなあ。」
自己紹介を済ませて、すすめられるままソファに座ると、
「みんな本当に手足が長いねー。ステージ映えするわけだ。
「社長も見に行ったんだよ。おとといのライブ。」
全然知らなかった…と麻也以外の3人が動揺していると、
「これからプロになるのには苦労が多いとは思うけど、がんばって。」
麻也は、再挑戦の機会が与えられたのだと、身の引き締まる思いだった。
他の3人も、背筋が伸びている。
「それで…やっぱりウチは事務所だから…
君たちのいろんな事情を把握しておかなきゃいけないんだ。
マスコミ対策もあるし。」
マスコミと聞いて、また麻也以外の3人は驚く。
「そうだよ。油断できないんだ。あっという間に売れて、あっという間に恋愛をすっぱ抜かれて、あっという間に売れなくなる人だっているんだから。
バンドブーム以来、ロックミュージシャンも大きく扱われるからね。
そうなるともう、ファンが大変で…」
経験があるらしく、高橋は笑う。そして、
「じゃあ、ちょっとだけ聞かせて。ごめん、全然わからないけど、この中の兄弟って…」
麻也と真樹が手を挙げると、
「そうなんだ。全然似てないね…」
「良く言われます。両親一緒です。フツーの家庭です。」
真樹の言葉に、先回りされてしまった、と高橋は笑い、
「わかりました。では、次の質問には絶対正直に答えて下さい。
言っておいてくれれば、どうやっても秘密は守りますから。」
麻也には何となく見当がつく。
でももう自分には関係ない。
ともだちにシェアしよう!