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第5章の8

 かねてから諒の芸術家気質を持て余し気味だった諒の両親は、 「うちの息子はこういった道しかないだろう」とたいそう喜んだというが、 堅い直人の両親は、妹の今後に悪影響があっては、と渋々だったという。  遠藤家に至っては両親は愕然とするばかり…だったが、 父がこっそり真樹に、このバンドがダメになったら真樹が自分の会社を継ぐこと、 を条件に告げ、麻也の前では渋々といった形で許した… 「兄貴、例のオッサンの呪いは解けたじゃん。」  手にしていたCDを思わず取り落としそうになりながら、そうだね、と麻也は答えた。  引っ越し準備の最中だった。  麻也にとってはふたたびのこと…メンバー全員都心から遠いので、事務所の寮に入れられてしまったのである。 携帯電話も持たされた。  諒と直人はそれぞれ別の場所にある借り上げのマンションだったが、 経費節減の意味もあって、麻也と真樹は2人で2LDKの部屋だった。 「恵理ちゃんが来る日は早めに教えてね。諒か直人に泊めてもらうから…」 「ああ、兄貴もね。」 そういう言葉を聞くたびに、最近では寂しさをひしひしと感じるようになった。 それを振り切るように、 「早くこれ片付けちゃいたいな。曲も書かなきゃいけないし。」 すると真樹は、 「諒の方はどうなってるんだろうな。あ、彼女たちの清算で忙しいか。」 そう言って笑ったが、麻也はなぜか笑う気になれなかった。  この前のライブの時のキスよりも、注意しようとして奪われたキスがすごく印象的だった。

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