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第5章の11

 …この間にも諒と麻也の曲作りの締め切りは近づいてきていた。  そんなある日の午後、麻也が歌詞で悩んでいると、携帯に電話が来た。  諒からだった。 「珍しいじゃん。どうしたの? 」 すると諒は神妙な声で ―麻也さん、ウチに来て歌詞と曲を見てもらえないでしょうか。 諒が持ってくるのが筋のような気もしたが、真樹に気をつかっているのかもしれない、と思った麻也は、 貸スタジオに行っている真樹に置き手紙をし、自分もスコアや歌詞を持って出かけた。  諒の部屋に着き、ドアを開けてもらうと、自分から呼んでおいたくせに、諒は伏し目がちで、元気もない。 「ちょうど良かったよ。俺も歌詞見てほしかったんだ。」 麻也は元気よく言ってみたが、招き入れてくれる様子は本当にヘンだった。 「ソファ、白が当たってよかったね。」 麻也の以前の寮と違って、新しくてなかなかおしゃれな、家具は備え付けの寮である。 諒は黙ったまま、小さめのペットボトルのコーヒーを出してくれた。 すぐにスコアを出すのも…と思って、バッグを床に置くと、麻也はおとなしくそのコーヒーを飲んだ。 それでも諒は何かをためらっている。 「諒、どうしたの? 」 それでも諒はじゅうたんに正座したまま、目を伏せている。 麻也は嫌な予感がした。 スコアは口実で、今さらになってバンドを辞めたいとか… だから優しく声をかけた。 「諒、何か困ってることがあるなら、俺で良ければ相談にのるよ。」 するとようやく諒は顏を上げ、堅苦しい口調でこう言ってきたのだ。 「麻也さん、俺とつきあっていただけないでしょうか。」 お願いします、と土下座してきたのである。 思いもよらないことに、麻也はフリーズするばかりだった。

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