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第18章の26←(あの男に脅える麻也王子)

「…いや、兄貴は目の前にいるよ。携帯はいつもの通り、 電源切ったままバッグの底だったんじゃない? 気が付かなかったけど。 今、コーラ飲みながら、明日鈴木さんと、 兄弟そろって病院に連れていってもらおうって…」 えっ? と真樹は大きな声を上げた。 「…いやあ、何とか断ってよ…そんなこと聞いたら兄貴ここで死んじゃうよ…」 やっぱりまた鈴音がらみのスケジュールの変更のようだ… しかし、鈴木も気の毒だと、真樹は携帯を手渡してきた。 明日、鈴音ちゃんの公開リハーサルだって、と言いながら… 「…鈴木さん、どうしても俺が行かなきゃいけないんだろうか…」 「はあ…何しろ、向こうには一生で一度のデビューのテレビですからね… あちらの会長さんと、専務の伊尾木さんまで来られるそうで…」 麻也は倒れそうになった。 …あの…あの男まで来るのだろうか…でも、訊くこともできなくて… しかし、以前一緒に陰口を聞いたせいか鈴木は、 「…社長さんは鈴音さんのデビューに反対で、ロックの方に忙しいから、来ないみたいです。 鈴音さんで成功したら、すぐに伊尾木さんが社長になるんじゃないかって言われてますよ…」 それで安心したが、麻也はやっぱりためらった。 (…せっかく諒が何度も直しを入れて研ぎ澄まされた歌詞と、 ボーカルを早く聴きたいのに…) とはいうものの、付き合いというものもあるし、自分の過去を振り返っても、 誰かのデビューというものに傷をつけるのは本意ではなかった。

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