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第5章の57
スタジオの打ち合わせ室に入るなり、木内は、
「諒くん、何か感じ変わったね。洗練された、っていうか、セクシーになったというか…」
「あ、はあ、ありがとうございます…」
諒は赤面するばかりだった。予想外の攻撃に、麻也も密かにあわてたが、
「これは何かあったな。でも、ほんとに麻也君のオーラに近づいた感じでいいよ…
って、本題に入るか。」
と、それ以上は突っ込まれなかったので、2人は胸をなでおろした。
木内はデモテープを聞き、歌詞にも目を通した上で、
「1枚目は大筋、これでいいと思う。これで世間の評価を見てみようよ。
もちろん、各パートの肉付けは、僕も厳しくチェックするけどね。」
2人が喜ぶ間もなく、途中からやってきたディスグラのチーフマネージャーの須藤も交え、
スタジオ作業のスケジュールも組まれた。
スタジオを出ると、須藤に連れられ、リズム隊と事務所の会議室で合流し、
スケジュール確認…
麻也も驚いたのは、その宣伝に関する作業の多さだった。
(期待されてるな、俺たち…)
さらには、アルバム発表後の手始めの5か所のライブハウスツアーでは、
北海道の札幌まで入っている。
(前のバンドでは1回しか行けなかったっけ…)
「ありがたいですね、北海道も入ってるなんて。」
「おっ、麻也さん、わかってくれた? 交通費考えたら赤字ですからねえ。
このツアーが成功しないと、次の北海道はないですから。」
須藤が言うのに、他の3人はプレッシャーのあまり、苦笑だった。
本当に、宣伝のために割かれる時間は多かった。
ほぼ音作りのかたわら、というか、並行作業なのだ。
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