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第5章の68
仕事中も女の子の話…というか色恋の話がはばかられるようになったのも、麻也には救いだった。
須藤から、ツアーの注意のひとつとして、ファンの女の子には手を出すなとキツく言われたせいで、
真樹も直人も自分の彼女の話までできないムードになってしまったからだ。
CDも売れていないのに、ライブもまだなのに、女の話なんて…といったところだ。
麻也は、自分のやんちゃを思い出し、
(うーん、ファンはマズいかもだけど、真樹も直人も遊びたい時期だろうに…)
と思う。しかし、
(ここの事務所は何もかもきちんとしてる。何かあってもちゃんと対応してくれるだろう…)
という安心感も覚える。
すると、須藤は、
「諒さん、男の子もダメですからねっ! 」
「何で名指し? 」
「そういう歌詞書いてるでしょ! 」
それは麻也も同じなのだが、笑いながらもみんなはそれを忘れているようだった。
…みんな、本当に気づいていないのか、実は麻也はかなり気になっているのだが。
そして、ツアーの部屋割りは案の定、二人一室で、麻也は真樹と一緒だった。
―ツアーの部屋割、何とかしてほしいよ。
麻也さん、真樹と大ゲンカとかして。
麻也はこのメールを見て大笑いしてしまった。
諒と同室になるためとはいえ、まさかこのデキのいい弟とケンカするわけにもいかない。
―やっぱりツアー中は、悪魔の魔法でガマンして。
くすくす笑いながら、麻也はメールを送信した。
しかし、その返事が来ない。
そして、その次の日から、諒は遅く仕事に来るようになった。メンバーとは別行動。
リハーサルでも必要最低限しか話さず、休憩時間も別室だった。
そして須藤にべったりで、二人はメンバーを避けているように見えた。
そして、ものすごくやつれて…ツアーまで一週間を切ったというのに…話してくれることもなく…
(まさか、俺との事がバレたとか…)
麻也は不安で何度もメールした。が、全く答えはない。
麻也が珍しく動かないのに業を煮やしたように、
諒が席を外した隙に、真樹が須藤につめよった。
「須藤さん、諒に何があったの? 」
「明日、社長から話がありますから、その時に。」
それ以上訊ける様子ではなかった。
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