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第5章の70

「ね、諒、俺たちクビじゃないよね? 」 混乱している真樹が、らしくもなく割り込んでくる。 「違います。ほんとは俺のことをクビにしたいけどもうできないから、 このことは秘密にして働けって、社長に言われました。」 「…って、今さらだけど、あの、諒さ、子供ができたってこと? 」 諒は唇を噛んで、困ったようにうなずく。 「あー、でもそれって、本命の彼女なんでしょ? 」 すると、諒は首を横に振る。大きな瞳から涙がこぼれる。 「えっ…」 また真樹も言葉を失う。が、どうにか、 「…まあ、男だもん、責任取らなきゃ、だよね…」 すると諒は大きくため息をつくばかりで返事をしない。 真樹は不安になり、 「それほんとに諒の子供なの? お前優しいから、違うのに押し付けられたりしてない? 」 「いや、ぎりぎり日数とかあってるから…」 「はあ? じゃあ、例の、清算した子の1人が、その…妊娠してたってこと? 」 「はい…」 そして、再び、 「…麻也さん、申し訳ありません。再デビューも…」 「もう帰れよ! 」 麻也は思わず叫んでいた。 そして、諒の方を見ずに立ち上がり、 「もういい! 」 「麻也さん…」 「ボーカリストが、土下座なんかすんな! もういい! 帰れ!」 その剣幕に2人がたじろいでいるのはわかったが、麻也は踵を返してさっさと自分の部屋に入ってしまった。

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