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第5章の72

 自分と抱き合う時、諒はいったい何を考えていたのだろう… そう思うと自分が惨め…で…  ベッドに座り込んだまま、指一本動かす気にもなれない。 (あんなヤツを信じたなんて…) やんちゃで一本気なのが可愛くて、芸術家気質で、でも心の温かい美青年… その裏側は、メンバーをだましても、裏切っても平気な男だったというのだろうか。 (真樹や直人、それに事務所のみんなだって気の毒だ…)  何より… (…守ってやるとか、癒してやるとか…) あのいまわしい事件よりもはるかに深く、さっきの出来事、 そしてこれから続く「既婚者の諒との毎日」は自分をさいなむ… なんて認めない…認めない…  そこまで考えると何だか頭がくらくらしてきた。  それに、真樹が帰ってきて、話しかけられるのも嫌だったので、麻也はベッドにもぐりこんだ。  電気を消す元気はなかったので、そのままにしておいた。 「あさってからツアーなのに! ライブなのに! 」 声を出しても何も変わるわけでもないが… プロとして体をいたわらなければ、と、麻也はおとなしく横になっていることにした。  こんな「くだらない事件」につきあってなんかいられない。  そのうち、諒にも、くだらない、ミュージシャン好きの女でもあっせんしてやろう。  夫婦の倦怠期の頃にでも…  そして2人で、遊んだ感想なんか言い合うような感じになって…  それが続けば、諒の家庭なんか簡単に壊れるだろう…なんて…  …俺はそんなあさましい男じゃない…

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