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第5章の73

 玄関のドアが開くような音で、麻也は我に返った。というか、すこしうとうとしていたらしい。 時計はもう午前6時近い。  すぐに部屋のドアは開いた。 「兄貴、起きてる? 」 「ごめん。寝てた。」 まぶしい、と嘘を言って、麻也は毛布を頭からかぶった。 そして真樹の言葉を待つのに震えた気がした。 が、真樹の話は意外なものだった。 「諒はね、本命の人には話も聞いてもらえなかったけど、死んでお詫びがしたいって号泣しながら言ってた。 でも1年で離婚するから、そしたら今度こそ同棲してもらうんだって…」 「…」 諒はともかく、真樹がこんな馬鹿げたことを言うとは… さっきの…自分の諒への態度で2人の関係に気づいたと言いたいのか、 それとも…諒の話を聞いているうちに察したのか… 麻也は身のすくむ思いだった。 「本命の人は、二つ年上の業界の人で、 諒のことをすべて受け止めてくれるような頭もいい人で、 ルックスも性格も、とにかく完璧な人だったんだって。 交換したペンダントはあの世まで持ってくって…」 「…」 毛布の中で、麻也は言葉を失うばかりだった。 すると真樹は、 「…そこまではまあ、いい話なんだけど、あとはもう…」 と言いよどんだが、 「ホントに1年こっきりで離婚する予定みたいだよ。 赤ちゃんが宙に浮いてるんだもん。 …諒の気持ちはそんなだし、相手の女の子も今の彼と結婚したくて、 バツイチにはなりたくなかったみたいだし…」 「…何それ…」

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