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第5章の76

 社長室では、真っ青な顔をした諒が待っていた。 そして、ふらふらしながら遅刻で入った麻也と真樹の後から、 須藤に別室で説明を受けたらしい直人が戸惑いながら入ってきた。 「えー、諒の方からみんなに話があります。」 社長に言われて、立ち上がろうとした諒だったが、体が大きく傾き、倒れそうに… 直人があわてて支えた。 「諒、大丈夫か? いいよ、座ったままで…」 社長が言ってくれるのに、諒は、大事な話なので…と無理に立ち上がり、 社長の机の横に立った。 「えー、私ごとではございますが、このたび、結婚することになりました。 子供が6月には生まれます。   今後も頑張っていきますので、よろしくお願いします。」 そう頭を下げる諒に、仕方なく、麻也も拍手した。 「そんなわけで、せっかくめでたいことだけれども、これはトップシークレットにしてくれよ。 君たちはアイドルバンドじゃないけれども、若くしてのデビューだし、ルックスも注目されてるから… しょっぱなから女性ファンの夢を壊すわけにはいかないんだ。 みんなも忙しくて疲れてると思うけど、今日はこれで帰宅して、明日からのツアー、頑張ってくれよ。」    そして諒には、 「諒、悪いけど、お前は家の中以外は独身の王子様でいてくれよ。 こういう仕事だからその辺は割り切って、な。」  真樹と直人は社長室を出てから、諒に、控えめにおめでとうを言っていたが、 麻也はもちろん言えるはずもなく…  みんな何だかふらふらしながら歩いていると、須藤が後ろから追いかけてきて、 「社長が言ってた通り、今日は午後の仕事は全部キャンセルしましたから。 会議室で最終確認したら、まっすぐ帰宅して、明日の準備と休養をお願いしますよ。」

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