191 / 1053

第5章の78

 座席と同じく、諒の方は直人と一緒に動いていた。  諒がいつも通りの様子に戻っていることが、何だか麻也には腹立たしかった。  しかし、諒たち3人には初めての会場でのリハーサルになると、麻也も積極的にならざるを得ない。  諒とだって、これまで通り話す。いかにもライブハウスらしい音の響きのクセを確認した後、 「悪魔の魔法は俺から? それともいつも通り諒から?」  諒がほっとしているのが伝わって、麻也も少しほっとする。 諒も自分のことを少しは気にしてくれているのかと… でもすぐに、それを気にしている自分に腹が立つ。 そして、直人がいるからか、真樹も異議を挟まない。 「やっぱり最初だから、諒からでしょ。」 「そうそう。麻也さんから仕掛けると過激に見えると思うんだよねえ。」 何が何でも、悪魔の魔法は続けるのだ…  ホールではなく、まだライブハウスなので、麻也以外のメンバーも勝手がわかっている気がする。 「でもね、本当にその土地その土地でノリは全然違うから気をつけて。」 「うんうん。」 「今日の地区は、このハコでも客があんまりノリノリじゃなくて、遠慮がちな感じだったけど… でもそれも前のバンドでのことだから、ディスグラではどうなるかは俺も読めない。 ただ、ボーカルも含めてディスグラの方がはるかにインパクトあるから、案外イケるかもしれない。」 昨日までのスキャンダル騒動に疲れたメンバーの姿はもうそこにはなかった。 が… (今は気を張ってるからいいけど…俺自身が、3か所目くらいにヤバいかも…) 実際、麻也は前日もほとんど眠れてはいなかったのだ。 もう、今日は、天使のチョーカーを身につけてはいない諒のことが気になって…  それじゃあ本番よろしくお願いします、と麻也たちはスタッフたちに声をかけ、リハーサルを終えた…

ともだちにシェアしよう!