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第5章の78
座席と同じく、諒の方は直人と一緒に動いていた。
諒がいつも通りの様子に戻っていることが、何だか麻也には腹立たしかった。
しかし、諒たち3人には初めての会場でのリハーサルになると、麻也も積極的にならざるを得ない。
諒とだって、これまで通り話す。いかにもライブハウスらしい音の響きのクセを確認した後、
「悪魔の魔法は俺から? それともいつも通り諒から?」
諒がほっとしているのが伝わって、麻也も少しほっとする。
諒も自分のことを少しは気にしてくれているのかと…
でもすぐに、それを気にしている自分に腹が立つ。
そして、直人がいるからか、真樹も異議を挟まない。
「やっぱり最初だから、諒からでしょ。」
「そうそう。麻也さんから仕掛けると過激に見えると思うんだよねえ。」
何が何でも、悪魔の魔法は続けるのだ…
ホールではなく、まだライブハウスなので、麻也以外のメンバーも勝手がわかっている気がする。
「でもね、本当にその土地その土地でノリは全然違うから気をつけて。」
「うんうん。」
「今日の地区は、このハコでも客があんまりノリノリじゃなくて、遠慮がちな感じだったけど…
でもそれも前のバンドでのことだから、ディスグラではどうなるかは俺も読めない。
ただ、ボーカルも含めてディスグラの方がはるかにインパクトあるから、案外イケるかもしれない。」
昨日までのスキャンダル騒動に疲れたメンバーの姿はもうそこにはなかった。
が…
(今は気を張ってるからいいけど…俺自身が、3か所目くらいにヤバいかも…)
実際、麻也は前日もほとんど眠れてはいなかったのだ。
もう、今日は、天使のチョーカーを身につけてはいない諒のことが気になって…
それじゃあ本番よろしくお願いします、と麻也たちはスタッフたちに声をかけ、リハーサルを終えた…
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