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第5章の82
乾杯がすんで少しすると、やっぱりかつて麻也が前のバンドで世話になった、まともな大人…
地元のイベンターやマスコミなどの関係者が何人もお酌に来てくれて、優しく言葉をかけてくれた。
「MA-YA、じゃなかった、麻也くん、ライブの成功おめでとう。ずいぶんとまたいいバンドだね…」
「ありがとうございます…」
「麻也さん、リベンジおめでとうございます…」
…ふと気がつくと、そんな麻也の様子を離れて見守ってくれている、メンバー3人のまなざしがあった…
そのうち、麻也も本当は自分も席を移動したかったが、
疲れて動けないでいるところへ真樹がさりげなくビールの瓶を持ってやってきた。
「兄貴、飲んでる~? って、何…? 」
麻也の前の皿を見て驚いて、小声で訊いてくる。
「…どしたの? 食欲まだ出ない?
「あ…うん…何か疲れちゃって…」
「何か食えそうなものない? 茶わん蒸しでも持ってこようか? 」
「ああ、それくらいなら、食べられるかも…」
二次会は貸切のスナックだったが、ここでもボックス席は麻也と古い知人たちになってしまい、
諒と直人たちはカウンターに追いやられ、マスターたちに相手をしてもらっていた。
真樹は少しでも兄のおしゃべりの負担が減ればと思って、麻也の隣に座り、
みんなが語ってくれるその武勇伝に相づちを打ちながら、
せめてもの栄養になればということなのだろう。麻也に好物の「ポッキー」を食べさせてくれていた。
そのうち、他のみんなも面白がって、「麻也ちゃんの餌付け」などと言って、麻也にポッキーをくわえさせていた…
平和に二次会まで終わると、セクハラもお持ち帰りもなく、
ディスグラご一行は無事その日の宿泊先のビジネスホテルに帰った。
部屋に入れば真樹と2人なので、気をつかうこともない。
ツアーが初めての真樹は、語り合いたいことがあるようだったが、兄のあまりの疲れように、
「プロのライブは、客席の期待がハンパじゃないことがよっくわかりました。
あとは明日話します。おやすみなさい。」
と言って、早々にベッドに入った麻也のベッドのライトを消してくれた。
…しかし…
ライトを消して、真樹が寝てしまってからも、麻也は寝付けなかった…
あんなに飲んだのに…
あんなに動いたのに…
そして、あんなに全身全霊をかけてメジャー復帰したのに…
どうしてすべての幸せが手に入らないんだろう…
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