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第5章の83

  そんな状態でも、次の日は地元ローカルの取材がいくつもあった。  ラジオでは、らしくもない失敗をしてしまった。  諒の背中を見ているうちに、心ここにあらずで、DJの質問を聞き逃してしまったのだ。 「長老、聞いてる? 」 「おじーちゃん、答えて! 」 「この人ギター持ってる時だけカッコいいんですよ。」 3人のフォローでどうにか乗り切ったが、諒の「ギター持ってる時だけ」発言はあんまりだと思った。 でも、生意気な諒は久しぶりで、麻也には懐かしかった。 「麻也さんは花のように微笑んで、何にもしゃべらない方なんですね。」 というDJのツッコミに、 「いえ、他の3人がおしゃべりなんでボクは…」 と、答えるしかなかった。 実際そうなのだが、やっぱり突然の失恋がこたえていると思う。 そしてその相手とずっと一緒にいて、ステージの上ではキスまでしなくてはいけないのだから、 ライブに夢中な時間以外は地獄のようだった。  これが「悪魔の魔法」の対価なのかもしれない、と麻也は思い始めた。  ならばもう自分はこんなにつらい対価を払っているのだから、東京ドームにはいかせてもらおう、そうも思った… (この章終わり)

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