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第6章の5

 間接的なプロモーションが振るわないなら、直接的なライブで頑張るしかない。  しかし、久しぶりに盗み見ると、諒も何だかやつれて元気がない。 「諒、元気出していこうな。」 これまた久しぶりに声をかけると、諒は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔でうなずいてくれた。 …リズム隊がそれを、ほっとしたような表情で見ていた。  そのせいばかりでもないだろうが、どこの会場でもステージはパワーあふれるものになった。 ちょっと諒が疲れているなと思ったら、麻也は自分から積極的にキスをねだるなんてこともして、 女の子たちを熱狂させた。  諒の成長もめざましかった。麻也のややポップめの曲でも、ボーカルの表現力が増していた。 リズム隊の2人も「見せる」ことが上手くなってきて、 「ライブ中、どこを見たらいいか迷う」とファンに言わしめるほどになった。  ツアーのラストはこの前のホールだったが、急きょ追加公演が決定し、2デイズになった。  このツアーが終わった後、麻也にはニックネームがつけられた。  ひとつ目は「流し目王子」で、もう一つは「姫」だった。  本人にはその気はなかったのだが、関係者の話やファンレターによると、流し目の回数と、パワーが増えたらしい。  ギターを持っている時とそうでない時の表情がまったく違うといっそう言われるようになったのもこの頃だった。  ギターを持っている時はあんなにりりしいのに、どうしてテレビでトークしている時は可愛いのか、ポスターでは可憐なのか…  それで、ベテランライターの柴田に「姫」と呼ばれるようになり、 雑誌の「編集後記」では「ディスグラの麻也姫」と書かれ、急速にファンにも広まってしまった。  …などと、王子だの姫だのともてはやされても、プライベートでは、麻也は孤独だった。  いまわしい過去…諒とのことも含めて…から、逃れられない男になっていた…

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