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第6章の6

 そんな頃…諒の子供…息子の大翔(ひろと)が生まれたということを真樹から聞き、 麻也が苦しんでいた頃… 麻也たちメンバーはレコード会社の会議室に呼び出されていた。  三枚目のシングルの打ち合わせだった。  制作部長が口火を切った。 「君たちのアルバムは通好みのようだね。雑誌のレビュー何かでも高い評価で、僕も嬉しいよ。」 「はあ…」 しかし、次の言葉が心配で、みんな腰が引けている。 「でも…それだけでは困るんだ。君たちは大型新人なんだ。 もっと一般のファンにCDを買ってもらわなきゃだめなんだ。」 諒の顔色が変わったのがわかる。 「三枚目のシングルは、深夜でも浅い時間の番組のタイアップを取ってきた。 ウチの会社はまだまだ小さいから、もうこの辺で売れてくれないと困るんだ。」 部長の剣幕に、メンバーは言葉もない。 「好きなことは売れてからやれるよ。 とにかくビッグになって力を持ってくれ。 諒君でもいい、麻也君でもいい、とにかく売れる曲を書いてくれ。」  反論できずに4人は事務所の会議室に帰ってきた。  みんな言葉が出ない。  どうにか真樹が、 「ライブは順調なのにね。」 すると諒が不快そうに、 「何か、全否定、って感じ。」 直人は、 「全否定ではないでしょ。通好み、ってのは部長も認めてるんだし。 何より俺たちの音楽性をかってスカウトしてくれたんだし…」 「でもあの言い方は…俺たちは少しずつ実績を伸ばしてるよ。このペースじゃだめなの? 俺たちの世界観を引っ込めてまで売れなきゃだめなの? 」 誰にも目を合わせず、諒は訴える。

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