202 / 1053
第6章の6
そんな頃…諒の子供…息子の大翔(ひろと)が生まれたということを真樹から聞き、
麻也が苦しんでいた頃…
麻也たちメンバーはレコード会社の会議室に呼び出されていた。
三枚目のシングルの打ち合わせだった。
制作部長が口火を切った。
「君たちのアルバムは通好みのようだね。雑誌のレビュー何かでも高い評価で、僕も嬉しいよ。」
「はあ…」
しかし、次の言葉が心配で、みんな腰が引けている。
「でも…それだけでは困るんだ。君たちは大型新人なんだ。
もっと一般のファンにCDを買ってもらわなきゃだめなんだ。」
諒の顔色が変わったのがわかる。
「三枚目のシングルは、深夜でも浅い時間の番組のタイアップを取ってきた。
ウチの会社はまだまだ小さいから、もうこの辺で売れてくれないと困るんだ。」
部長の剣幕に、メンバーは言葉もない。
「好きなことは売れてからやれるよ。
とにかくビッグになって力を持ってくれ。
諒君でもいい、麻也君でもいい、とにかく売れる曲を書いてくれ。」
反論できずに4人は事務所の会議室に帰ってきた。
みんな言葉が出ない。
どうにか真樹が、
「ライブは順調なのにね。」
すると諒が不快そうに、
「何か、全否定、って感じ。」
直人は、
「全否定ではないでしょ。通好み、ってのは部長も認めてるんだし。
何より俺たちの音楽性をかってスカウトしてくれたんだし…」
「でもあの言い方は…俺たちは少しずつ実績を伸ばしてるよ。このペースじゃだめなの?
俺たちの世界観を引っ込めてまで売れなきゃだめなの? 」
誰にも目を合わせず、諒は訴える。
ともだちにシェアしよう!