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第6章の7

 見かねた麻也が、 「そこまで引っ張ってくるには、キャッチ―な曲で、まず知られなきゃ、ってことなんだろうね。」 みんな黙り込む。 麻也は決意した。 「俺、書いてみるよ。みんなやりたくないだろ。」 なぜか、俺は汚れ役でいいよ、と口をついて出た。 それに対して目はそらしたまま、諒は机を叩いて叫んだ。 「アンタのそういうところが嫌なんだよね! 」 直人が止めようとするのをさえぎって、諒は、 「再デビューだか何だか知らないけど、自分の過去が気に食わないからって卑屈になって。 そんなにあなたの業界経験は恥ずかしいものなの?  すぐに切って捨てられるほど、俺らのマニアックさは他人事なの? 」 2人しか知らない秘密を暴露されたようで、麻也は思わず固まってしまった。 が、直人と真樹が、 「諒、麻也さんはそんなこと言ってないじゃん。」 「兄貴も汚れ役とか言うなよ。でも、諒、兄貴は前のバンドですげえ苦労して、 同じ道に転がらないようにっていつも言ってるだけなんだよ。 兄貴は『売れないことの結末』を、身をもって知ってるんだよ。」 「…売れなきゃ所詮、負けなんだよ。」 麻也は味方を得て、ようやく言った。 すると諒は、 「どうぞご自由に。俺は東京ドームになんか行けなくても結構。」 「諒! 」 「何だよそれ! 」 リズム隊が叫んでいると、 「契約不履行だけはやめてもらおうか、諒。」 その麻也の口調があまりにも厳しいものだったので、驚いて諒は麻也の顔を見た。 「悪魔の魔法の結末を、一緒に見てくれなきゃ困るんだよ。 赤ん坊のミルク代だって事欠きたくないだろ? 」 麻也はそう言い残すと、力なく会議室を出て行った。

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