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第6章の8
締め切りの日になっても、諒はシングル曲の候補を提出しなかった。
麻也の方は、といえば、自信作、という訳ではなかったが、自分なりに納得できたもの2曲を木内に提出した。
進行コードから歌詞まで、完全に売れ線狙いだった。
木内は目を輝かせて喜び、2曲とも採用が決まった。
それからはバンドとして肉付けをしていくわけだが…
麻也は果たして諒が納得して歌ってくれるのか心配で仕方がなかった。
が、スタジオに入り、歌詞を見ても、まあこの前のやり取りの後何か考えたということなのか、
諒は何でもない風で、
「ふうん、こういう曲なんだ…じゃあやりましょう。」
と、綿密な歌詞チェックを始めた。
タイアップの方の曲名は「ディスティニー」という。
「タイトル、響きが何か懐かしいね。売れるといいね。」
真樹と直人はそんなことを言って喜んだが、諒はマイクに向かって感情を込める時以外は、終始、機械的だった。
―…これは運命
運命なのさ…
諒との事を思いながら書いた詞のワンフレーズが、麻也の頭の中をぐるぐると回っていた。
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