205 / 1053
第6章の9
諒の湿り気を帯びた声が、切なくもわかりやすいラブソングを歌いあげる。
それは、番組の高視聴率ともあいまって、街中に流れ始めた。
もちろん、麻也たちメンバーの宣伝活動もこれまで以上だったが…
新曲「ディスティニー」の、オリコン順位は何と初登場8位。
CDがガンガン売れていた。取材もさらに増えていた。
当の麻也も驚いている間にセールスは80万枚を越え、次のツアーのファイナルは、
渋谷公会堂に決まった。
ツアーも、これまでに行ったことのある地域の会場はホールになっていた。
セットも派手になるらしい。
例の制作部長も事務所の社長もウハウハだった。
それでも麻也は心配だった。
諒はいやいや歌っていたのではないかと…ライブで歌いこなしてくれるのか、
他の曲から浮いてしまわないのか、ツアーのリハーサルまで心配だった。
が、そこは諒もプロだった。
嫌な顔などひとつも見せず、他の曲と同じように自分のものにしていく。
あのいさかいも、それ以降の冷戦状態も嘘のようだった。
両A面のもう片方「トラジディ」もアップテンポのノリのいい曲だったが、
この曲と「ディスティニー」目当てで来る客も多いと踏んで、この2曲では「悪魔の魔法」は使わない。
使うのはこれまで通り、「マジェスティック・クラウド」…
ともだちにシェアしよう!