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第6章の9

 諒の湿り気を帯びた声が、切なくもわかりやすいラブソングを歌いあげる。  それは、番組の高視聴率ともあいまって、街中に流れ始めた。  もちろん、麻也たちメンバーの宣伝活動もこれまで以上だったが…  新曲「ディスティニー」の、オリコン順位は何と初登場8位。 CDがガンガン売れていた。取材もさらに増えていた。  当の麻也も驚いている間にセールスは80万枚を越え、次のツアーのファイナルは、 渋谷公会堂に決まった。  ツアーも、これまでに行ったことのある地域の会場はホールになっていた。 セットも派手になるらしい。  例の制作部長も事務所の社長もウハウハだった。  それでも麻也は心配だった。 諒はいやいや歌っていたのではないかと…ライブで歌いこなしてくれるのか、 他の曲から浮いてしまわないのか、ツアーのリハーサルまで心配だった。  が、そこは諒もプロだった。  嫌な顔などひとつも見せず、他の曲と同じように自分のものにしていく。 あのいさかいも、それ以降の冷戦状態も嘘のようだった。  両A面のもう片方「トラジディ」もアップテンポのノリのいい曲だったが、 この曲と「ディスティニー」目当てで来る客も多いと踏んで、この2曲では「悪魔の魔法」は使わない。 使うのはこれまで通り、「マジェスティック・クラウド」…

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