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第6章の13

 いったん東京に戻ると、テレビの、初めてのゴールデンタイムの音楽番組に出演した。 「しゃべるのは諒だけとは限んないんだから気をつけて…」 と、心配した真樹から釘をさされ、MCから「ヒット中の新進気鋭のバンド」と紹介された時も、 真剣に話を聞いていた。  演奏は音が確認しづらくて本当にやりづらく、一曲だけでうんざりだった。  が、アップが多い諒の「目力の強い美少年ぶり」と歌の上手さが話題になったらしく、 ファンレターがまた増えた。  立ち上がったばかりのファンクラブの会員数も一気に増えていた。  ツアーが終わると、新しいアルバムの制作だった。  麻也が作る曲はやっぱり、今の波に乗って、また前のバンド時代の失敗を踏まえて、 どうしても売れ線志向になる。  ただ、今回は、諒もそれに近い路線を心がけてくれたらしく、 前作に比べて曲のバランスは取れている感じだった。  今回は、自宅に行ってのすり合わせ作業などはもちろんなく、 木内に一緒に提出して、3人ですり合わせ作業を行った。 諒は相変わらず1人で、あの部屋に住んでいるらしかったが…  レコーディングのために、正月休みらしい休みはなかったが、 このアルバムのツアーが終われば長めのオフが待っているので、 みんな楽しみにしていた。  アルバムはリリースされるとオリコン第3位、90万枚のヒットになった。  それを見て、予定されていた全国30か所のホールツアーが始まるが…ラストは武道館となり、メンバーも驚いていた。 「まあ、その前にツアーで力をつけないと。」 みんなが浮き足立たないように、自分も武道館の経験はないが、麻也は言う。  とはいうものの、ツアーの合間にも東京でいくつかのイベントが入ってしまい、 体調の良くない麻也は、ペースが乱されるのを密かに腹立たしく思うようにもなっていた。

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