212 / 1053

第6章の16

 その後は音楽雑誌のグラビア撮影で、とても諒には話しかけられなかった。  撮影が終わった時間は遅かったが、その後は4人とも事務所に連れて行かれた。 そこで正式に諒の離婚が伝えられたのだった。直人と真樹はすでに知っていたようだった。 「…23才の諒に離婚歴がある、子供さんはご両親が育てている、 それはトップシークレットだから、これまで通り、秘密として守り抜いてくれよ。」 はい、と答えたところで、麻也はふらついて倒れそうになり、真樹にようやく支えてもらった。  麻也は混乱するばかりだった。  あんなに苦しんで、現実と折り合いがついてきたところだったのに。  俺のこの一年間の苦しみはいったいなんだったっていうんだ…  そして、その一方で…離婚したのなら…自分とヨリを戻してくれないだろうか、などと思っている自分もいて… そんな自分を麻也は持て余す。 「兄貴、黙っててごめんね。俺は直人から聞いて知ってたんだけど…」  家での夕食時、真樹はすまなそうに切り出した。 「…いいよ…俺の方こそ心配させてごめん…」 そう言うのがやっとだった。 「グチりながら、すっごい酒飲んで直人の家で暴れたらしいよ、諒のヤツ。」 麻也には言葉もない。 「やっぱりまったくうまくいかなかったみたい。 赤ちゃん生まれても奥さんはずっと実家にいたんだけど、落ち込みがひどくて… 今の彼氏が心の支えになっちゃって、実家に引き留めるようになって、マスオさんみたいになっちゃったんだって。 それで、諒のご両親が早くから赤ちゃん引き取って育ててるんだって。 諒が相手と暮らした日は一日もなかったって。」 …諒の、真樹への伝言のような言葉は嘘ではなかったのだと麻也は思った。  しかし、何にしてももうどうすることもできない。 「まだ、若いんだから、子供のことは自分たちにまかせて人生やり直しなさい、って、 諒は親御さんに言われたみたいだよ。」

ともだちにシェアしよう!