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第6章の16
その後は音楽雑誌のグラビア撮影で、とても諒には話しかけられなかった。
撮影が終わった時間は遅かったが、その後は4人とも事務所に連れて行かれた。
そこで正式に諒の離婚が伝えられたのだった。直人と真樹はすでに知っていたようだった。
「…23才の諒に離婚歴がある、子供さんはご両親が育てている、
それはトップシークレットだから、これまで通り、秘密として守り抜いてくれよ。」
はい、と答えたところで、麻也はふらついて倒れそうになり、真樹にようやく支えてもらった。
麻也は混乱するばかりだった。
あんなに苦しんで、現実と折り合いがついてきたところだったのに。
俺のこの一年間の苦しみはいったいなんだったっていうんだ…
そして、その一方で…離婚したのなら…自分とヨリを戻してくれないだろうか、などと思っている自分もいて…
そんな自分を麻也は持て余す。
「兄貴、黙っててごめんね。俺は直人から聞いて知ってたんだけど…」
家での夕食時、真樹はすまなそうに切り出した。
「…いいよ…俺の方こそ心配させてごめん…」
そう言うのがやっとだった。
「グチりながら、すっごい酒飲んで直人の家で暴れたらしいよ、諒のヤツ。」
麻也には言葉もない。
「やっぱりまったくうまくいかなかったみたい。
赤ちゃん生まれても奥さんはずっと実家にいたんだけど、落ち込みがひどくて…
今の彼氏が心の支えになっちゃって、実家に引き留めるようになって、マスオさんみたいになっちゃったんだって。
それで、諒のご両親が早くから赤ちゃん引き取って育ててるんだって。
諒が相手と暮らした日は一日もなかったって。」
…諒の、真樹への伝言のような言葉は嘘ではなかったのだと麻也は思った。
しかし、何にしてももうどうすることもできない。
「まだ、若いんだから、子供のことは自分たちにまかせて人生やり直しなさい、って、
諒は親御さんに言われたみたいだよ。」
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