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第6章の23

 そんな忙しい日々、東京に戻ると、メンバーは社長室に呼ばれた。 「…正直言って、デビューして2年に満たない君たちには、武道館は難しいのかもしれない。 でも、ライブ一本一本を大切にして、自信を持って臨んでほしい。」  社長はそう言って話を終えると、麻也だけを社長室に残した。 「みんなにはああ言ったけど、麻也に関しては、僕はちょっと違うことを考えてる。 武道館には立ったことがないかもしれないが、君のキャリアや、 ライブで場数を踏んでることに賭けている。 大変だとは思うけど、やっぱりバンドを引っ張っていってほしい。」 「頑張ります。でもまだファンの結束も固まってないし、 初めて来るお客さんも多いし、厳しいは厳しいですね。」 「確かになあ、君たちは恐ろしく成長が早かったからなあ。」 社長にしみじみ言われると、麻也は、ただひたすら目の前のことをやるだけだった、 これまでのめまぐるしい日々についてちょっと反省する。 でも本当に、「売れて何より」だったはずだ。 社長も同じことを考えたらしく、 「でも、君たちはこの業界では『勝ち組』なんだ。 でも油断しないで右肩あがりで、これからも頼むよ。」  次の日は、武道館よりはやや小さいキャパの会場でのイベントだった。 「練習になってちょうどいいよね、諒。」 メークを終えた諒は微笑んでくれる。 その眼はいつもよりギラギラしていて、ハングリーさをたたえており、麻也は安心した。

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