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第6章の24

 武道館のためにつけられた舞台監督にも指摘されて、 この日のメンバーは、いつも以上に動いた。   演奏しながらステージの端から端まで走り…客席は大喜びだったが、 いつもより広いステージに挑戦する時は意外とタイミングも難しいもので、 体力もいつも以上に消耗する。 「ここで練習がてらやっておいて良かったかも…」 楽屋で、諒が言うとみんなもうなずいた。 「そして上手くいったよね。これなら武道館も大丈夫だね。」 麻也の言葉には、みんな、ためらいがちにうなずく。  残すはツアーのライブ3本だけだったが、その間にも武道館のリハーサルが入り、 忙しいことこのうえなかった。 が、しかし、そのおかげもあってか、3本のライブも評判は上々だった。  そして武道館…驚いているヒマもなく、前日のリハーサルが始まる。 今までは客席からしか見たことがなかったものを、今回はステージから見ることになる…  あんなことを言っていた諒も、冷静に音響チェックなどをこなしていたが… 「1万人入るのか…」 と不安そうに言うこともあり、麻也は、 「でもツアー動員の延べ人数よりははるかに少ないんだから、大丈夫だよ。」 と励まし、 「それより諒、キスの練習しよう。」 と笑わせた。 「俺たちはまだ粗削りかもしれないけど、いつも通りのプレイを心がけよう。 でも、ファンの中には武道館に特別な思いを持っている人も多いだろうから、 この前の会場みたいに、客席の端まで丁寧にあおろう。」 麻也の言葉に、みんなも大きくうなずいた。

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