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第6章の25
とはいうものの、麻也も真樹も前日は眠れないまま、会場入りした。
諒も直人も同じだったらしい。が、直人にはこう言われた。
「でも二人だと、励まし合えるからいいじゃん。」
「励ましあうー?! 」
3人で大笑いしてしまった。
「そういや俺たち励まし合わなかったな、兄貴。」
笑いながら諒を見るとガチガチだ。
麻也は諒の肩をポン、と叩き、
「会話に参加しろよー! 」
と言ったが、どうにか笑う諒の表情は硬い。
これは「本番に強い」に期待するしかない。
あとはリハーサル通り、真樹にもいつもより多く諒に密着してもらい、自分も絡んで、
諒に孤独感をあまり感じさせないことだ。
一人だけでステージを背負っているんじゃないってことを、常に感じてほしい。
最終リハーサルが始まると、みんなの緊張はほぐれていったかに見えた。
麻也は今日は、一人で演奏する時以外は、アドリブはやめることにしていた。
とにかく崩れないようにしなくては、と思っていた。
チケットは完売と聞いていた。記念に発売されるビデオのカメラももう回っている。
バタバタと走り回るスタッフの多さに、会場の大きさと責任の重さをあらためて思い知らされ、また緊張してしまう。
ヘアメークをしてもらっても、スタイリストの三田女史に衣装の着付けを手伝ってもらっても、麻也自身がもうガチガチだ。
でも、もう、やるしかない。
「時間でーす! 」
スタッフに声をかけられ、舞台のソデに移動する。
円陣を組む。
掛け声を叫んで、散っていく。
オープニングのSE、シド・ヴィシャスの「マイ・ウェイ」が次第に大きくなる中、
まだ暗いステージで麻也はギターを持ち、
ローディーのケンに手伝わせてセッティングする。
その間の、客席の会場を揺るがす大歓声の圧力が半端ない。
SEが、止まる。
…ライブの火ぶたが切って落とされる…
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