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第6章の26

 1曲目に「ディスティニー」を持ってきた。いきなり客席は最高潮だ。 あおった後で、サビの前のところで、諒の左肩にもたれかかり、 キス顔をさらして麻也は客席を挑発する。  始まってしまえば、緊張はない。  歌唱力には定評のある諒の声はよく出ているようだし、客席のあおりもいつも以上に大きい。  真樹も直人も笑顔だった。  中盤、しっとりとした「LOVELY」の後は最後まで激しく駆け抜ける。  直人以外の三人はステージの端から端まで走り、諒を迎えたスタンド端の方の席がはしゃいで激しく動いているのが麻也の視界にも入る。  最前列の客も、ビデオのレンズの向こうも、麻也は流し目で悩殺する。  終盤で、1万人を絶叫させたのは、悪魔の魔法…下唇を激しく吸われて、痛い。 のに、また、ディープキス…なのにタイミングが合わなくなり、二人の舌が見える状態でキスが終わって… 後から「目のやり場に困る」とファンに喜ばれることになってしまったが… 「武道館でも! 武道館でも! 俺たちの愛は変わらないです!  俺の恋人、ギターの麻也! 」 その声にも、客席への挑発の流し目で麻也は応える…  2回のアンコールのラストは、4枚目のシングルの2曲だった。  激しい曲で最後を飾ると、諒の、 「ディスティニー・アンダーグラウンドでした! サンキュー! 」 の叫び声で、ライブは終わった。  終わらないで…    の、客席の悲鳴の中、ラストのピアノ曲のSEが流れ、 ファンに手を振りながら、直人、真樹の順でステージを降りていくが、 肝心の諒が、客席に向かって両手を広げたまま、動こうとしない。 仕方なく麻也が歩み寄り、諒の肩を叩くと、不意に抱きすくめられた。 そしてくぐもった声で、 「百万ドルのキス。」 と耳元に言ってくる。 麻也はそれを催促だと思い、諒の背中に腕をまわして、客席から見やすい角度で、 少し長めのディープキスをした。 観客の悲鳴がすごい。  抱き締められたまま、、少し体をゆすぶられて、ようやく麻也は解放されたが… (…あ…天使のチョーカー…) 諒が身に着けてくれていたことに、ほろ苦い思いと、喜びがないまぜになる。 が、諒と肩を組み、客席に手を振りながら、麻也は笑顔でステージを降りていった。

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