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第6章の35

「何でだよ! 麻也さん、そんなの考えすぎだよ!  新しい母親ばかりがベストとは限らないんだよ!  俺のベストが子供のベストにつながることもあるって、麻也さん思えない? 」 そこで麻也は立っているのがつらくなって、シンクの前に座り込みながら、 そのすぐの扉を開け、もう一本残っていた包丁を取り出すと、自分の首にあてた。 諒の制止も間に合わなかった。 「諒がどうしてもわからないなら、俺が死ぬよ。 ケイドウミャク? 切ればいいんだよね? 」 「麻也さん、何を…」 「諒を死なせるわけにはいかないもの。俺そんなのやだし。 なら俺が消えればいいわけだから…」 「そんなの、俺の方がやだよ。麻也さんがいなくなるなんて…」 2人はしばし、お互いの顔を見つめあった。 すると諒は持っていた包丁を床に置き、 いかにも麻也を刺激しないための優しい笑顔を作って、 手を差し伸べながら近づいてきた。 「麻也さんも、あぶないから、その包丁、ちょうだい。」  諒の、美しい右手。愛しい、白い肌。  そんなものが、少しでも傷ついたらと麻也は心配になり、 包丁は諒には渡さず、自分の横の方の床に置いた…  そして、困ってしまって、諒の顏を見上げた。  諒も困ったように麻也の顏を見てくる。  しばし沈黙になった。 「子供さんのお母さんと復縁するときは…」 「ない。」 「子供をはさんでると多いみたいに聞くけど…」 「よそは知らないけど、俺はない。」 「…」 「麻也さんの心配はそれだけ? 」 「将来、子供さんに俺のこと知られたら…」

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