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第6章の43

 麻也が仕事に穴をあけては困るので、初夜らしい初夜は過ごせなかった。 でも手をつないで眠った二人は充分幸せで… まあ、諒の方には後日に何かたくらみがあるようではあったけれど…  次の日は午後からホテルのラウンジで取材だった。 「おう、魔夜姫、おはよう。あれ、諒君も? 」 姫、という名をくれた、ベテランライターの柴田である。 「おはようございます。急きょ参加しました。」 「せっかくのオフなのに、ずいぶん熱心じゃない? 」 「曲作りで煮詰まったんで、気分転換も兼ねて、ですかね…」 別々のタクシーで来たので、付き添いの須藤にもバレていないと思う。 もちろん柴田にも、だ。  さっそく二人のインタビューということになり、 コーヒーを飲みながら、数日前の武道館についていろいろと語った。 「…まだまだ未熟だと思うけど、これでバンドも大きく飛躍出来たと思います。」 と、麻也が締めたところで、あとは雑談になった。 「でも本当にすごいよね。あっという間の武道館だったもんね。 みんなの注目もすごいよね。」 「そう…ですかね? 」 2人はあまりピンとこず、柴田に訊き返した。 すると柴田は言葉を選びながら、 「あーの…たとえば麻也君の前の事務所あるでしょ。 あそこの坂口社長、ニューミュージック系を大きくした功績で、 親会社のローベル企画の社長に出世したんだよね…」 何気なく出た「坂口」の名に、麻也は凍りつく。が、柴田はそれをあまり気にせず続ける。 「そしたら、あそこもロックは弱いのに、ディスグラを越えるバンドを作るぞ! とか言ってるみたいよ。 あ、気を悪くしたらゴメンね。」

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